2006年11月14日

第0幕:Lost Rings

推奨レベル:3
推奨人数:4名(探偵役1名の参加時点でシナリオ発動とする)
中間報告:未定
基本AP:2
*************************


 陽の当たらない雑居ビルの階段は昼間だというのに薄暗く、どこか陰鬱とした雰囲気を漂わせていた。
 電灯は切れ瞬きもしない。所々建材が剥げ薄汚れた廊下の壁面は、管理維持などという意思がこのビルには一切働いていない事を物語っている。
 お化けビル、町の者にはそんな通称で呼ばれるこのビルに、今日は珍しくひとつの華が咲いていた。
 女。
 黒いヒールに黒いロングスカート、そして肩まで伸びた黒い髪。この場に似つかわしくなく、だがどこか馴染む姿…。

 「…探偵…事務所?」
 5階の廊下、一番奥の扉に張られた紙からは、かろうじてそれだけは読み取る事が出来る。くしゃくしゃに皺が入り薄焦げ茶色に変色した紙には退色し滲んだ手書きの文字が躍っており、それは無造作に貼り付けられているだけった。
 事務所とは名ばかりで、立派なネームプレートも無い。
 もしこの紙切れが足元に落ちていれば、間違いなくただのゴミだと思っていただろう。
 女はしばしの躊躇いの後、静かにその扉を開いた。

 破れた書類、色褪せた写真、読めないような字の書かれたメモの山…ある意味それは事務所といえる風景だったが、とてもそれらが機能しているとは言い難い姿だった。
 雑多であるというのならそれでもいい。だがそれに加え、既に風化し得体の知れない姿に変わり果てた弁当、幾重にも積まれて一種のオブジェを形成している店屋物の器、そしてそれらに群がる小バエ達。
 一瞬そのまま腐乱死体でも出てくるのではないかという不安に駆られそうな部屋の奥で、もそりと人影が動く。
 女は意を決して口を開いた。
 「あの…探偵さん?」

 部屋の奥、一際散らかったソファーの背越しに男は起き上がる。
 寝癖の付いたぼさぼさ頭に無精ヒゲ、よれよれのシャツには歪んだネクタイ、到底人前に出られる姿ではない。
 ぼりぼりと無造作に頭を掻き毟りながら、男はあくびをひとつ。
 「ぁ〜、悪い。今忙しいんでね」
 寝ていたというのに、だ。
 女の反応を伺う事すらせずに再度ごろりと横になる男。そしてその隣で困惑する女。
 「あの…主人の行動を調べて欲しいんです。毎夜毎夜、深夜になると戻って来るんです…」
 女はゴミ山と化した応接テーブルの上をそっとハンカチで払いながら一つの封筒を乗せる。
 「済まない。うちはそういうのはやってないんでね。尋ねる先を間違えてるよ。なんなら浮気調査専門にやってる所を紹介し…」
 聞き分けのない子供に言い聞かせるかのようにぼやきながら今一度起き上がり、男は財布の中から知り合いの探偵事務所が記された名刺を取り出そうとする。
 浮気調査なんてものは門外漢だ。探偵などと名乗ってはいても、その実はなんらその道に精通している訳ではない。世話になった恩師のこの事務所を引き継がなければ、そもそも探偵にすらなっていなかっただろう。そんな自分にはこういった泥臭い話は到底請け負えない。
 その時だ。やっとその時になって始めて女と目が合った。
 寂しい瞳。
 黒い喪服が良く似合う、そんな目。
 「間違ってません。だって…主人はもう…」
 小さな呟きの後、女は哀しげに微笑んだ。


 開幕。



 エントリー
posted by ErinnX at 16:03| Comment(7) | TrackBack(0) | 日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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